第9章 魔法の光 5. もとこと涼子②
その日の夜。
涼子の車の中。
涼子が運転をしていて、櫂が助手席にいる。
櫂のマンションに向かっているのだ。
「 悪いな、家まで送ってもらって。 着替えを取りに1度帰らなけゃとは思ってたんだけど 」
「 気にしないで 今度は私が着替え、とってきてあげる 」
櫂、涼子のその言葉になぜか反応した。
「 … 」
そんな櫂に気付いてない涼子が言った。
「 さっきの話だけど… ビジネスって、ひとつ成功しないと、次へは進めないわ。
成功してから、その後の軌道修正はいくらでもきくと思うの 」
「 … 」
「 今は、世界の建築界で力を持つ、ジェロームにあわせる方が櫂にとって得策だと私は思う 」
「 … 」
もとことは反対意見ということだ。
が、インテリアデザイナーとして成功している涼子らしい意見でもあった。
涼子、少し考えて言った。
「 …あの子、おもしろい子ね 」
もとこのことだ。
「 この間話した… 最近出会った仲間のうちの一人 」
「 …そう 」
「 …あいつ、ちょっと前までFionにいたんだ 」
「 Fionに? 」
「 ああ。 だから、建築に関してはシロウトだけど、物を見る目はあるんだ 」
「 … 」
そう…。
櫂のマンション前。
涼子の車がとまり、助手席から櫂が出てくる。
櫂、涼子に向かって
「 悪いな。 すぐ戻るから 」
「 あ、櫂っ 」
「 ん? 」
涼子が、手を差し出した。
「 ? 」
「 櫂の部屋の合い鍵、くれる? 」
「 … 」
櫂、嬉しいはずなのに少し戸惑う…。
翌朝。
目黒・もとこの部屋。
もとこ、キッチンで料理をしている。
材料をたくさん出して、いろいろつくっている様子。
その日の昼間。
表参道・伊勢谷櫂建築事務所。
樹たち他のスタッフが仕事をしている。
櫂はいない。
そこへドアが開き、もとこが入ってくる。
「 おつかれ~ 」
やたら明るいもとこ。
みんな、もとこを見て。
樹が言った。
「 あれ、もとこさん、どうしたんですか。 今日は土曜日だから、もとこさんお休みでしょ 」
もとこ、かまわず中へ入って
「 休みだよ。 はい、これ 」
もとこ、紙袋から大きめのランチボックスをいくつかだして、そのうちのひとつの蓋をあける。
スタッフ全員分のお弁当だ。
「 わっ、すっごいっ 」
集まるスタッフ。
「 これ全部、もとこさんが作ったんですか? 」
「 あったりめぇよ 」
スタッフの1人がつまみ食いをする。
「 うまいっ 」
それにつられて樹もひとくち。
「 ホントだ、マジうまい 」
「 よかった~ いっぱい作ったからみんなで食べて 」
みんな嬉しそうに食べている。
もとこ、ふと櫂の席を見る。
「 … 」
樹がもとこの視線に気付いて
「 あ、櫂さんは、いま、ちょっと気分転換にコンビニに… 」
…。
「 …そっ じゃあ私帰るわ 」
「 え、もう帰っちゃうんですか? 」
「 うん。 だって、私、今日休みだしぃ 」
「 …櫂さんには会っていかないんですか 」
もとこ、笑って
「 櫂に? どうして? いやでも月曜になれば、顔あわすんだからさ。 じゃ、みんな頑張ってねっ 」
もとこ行こうとする。
そんなもとこに樹が思わず声をかけた。
「 …もとこさんっ 」
もとこ、立ち止まる。
他のスタッフは弁当に夢中。
「 …ん? 」
「 …もとこさん、どうしてそこまでやってくれるんですか 」
「 …そりゃあ、みんな寝ないで頑張ってるのに、私、何の役にも立てなくて… これぐらいしないと。 それに… 」
「 それに? 」
「 ロンドンに行くことは、櫂の夢だから 」
「 …もとこさん 」
「 …夢、かなえてほしいじゃない? 友達ならさ 」
「 友達… 」
そう。友達。
「 じゃあ。 頑張って 」
もとこ行ってしまう。
その日の夜。
伊勢谷櫂建築事務所内。
櫂、図面を引いている。
かなり疲れた様子の櫂。
そばに置いておいたおにぎりを口にいれる。
もとこの差し入れのおにぎりだ。
櫂、図面に集中しながら
ふと、食べているおにぎりを見た…。
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第1章 30代で青春しちゃダメですか? 1. パリ出張にて①
【登場人物について】
飯島 もとこ (34歳) ・・・・ この物語の主人公。 外資系ブランド「Fion」営業企画部所属。独身。
伊勢谷 櫂 (34歳) ・・・・ 天才建築家。イケメンだが偏屈で相当な変わり者。
木下 樹 (24歳) ・・・・ 伊勢谷櫂建築事務所で修行中のフリーター。
今井 涼子 (34歳) ・・・・ インテリアデザイナー。 大学時代を櫂と一緒にロンドンで過ごす。
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登場人物の紹介